前回、ChatGPTに村上春樹・村上龍っぽい文章を書かせたらどうなるかを試したところ、そこそこいい文章ができたので驚いた、という話をした。生成系AIに対する自分の関心は、学生がAIを使ってレポートを作成したり問題を解いたりしたときに、はたして教員はそれを見抜けるのかどうか、または、そのようなレポートに自分ならどのような価値を見出せばよいのか、ということを自分なりに理解しようと思ったからだ。ちょうどタイミングよく新学期が始まったことと、Open AI社のCEOが来日したことなどが重なって、ようやく生成系AIの使い方についていろんなところで議論が始まっている。大学など教育界隈ではその利用に否定的な見解が多いようだ(4/10 Abema Times)。一方、一律禁止は時代に逆行しているのでは?という意見も多く(4/9 Flash)、社会全体としてどうしたらいいのか戸惑っているというところだろう。自分は、Google検索やWikipediaがそうであったようにAIの利用は否応なしに拡大すると思っているし、うまく付き合っていくしかないと思っている。

さて今回は、典型的な理科系の問題を解いてもらうことにしよう。ChatGPTはテキストベースのやり取りなので、数式を扱う問題はハードルが高いような気がする。また、数式の展開をどのように行うかも気になるところだ。

まずは中学校レベルの問題。
Q.「質量が500gのおもりを、50cm引き上げるのに5秒かかった。この時の仕事率は何Wか。ただし、100gにかかる重力を1Nとする。」
(背景着色部分はChatGPTの答え。一部読みやすいように改行箇所を変えたり、省略しています。)
まず、おもりにかかる重力を計算します。質量が500gなので、重力は次のように計算できます。

重力 = 質量 × 重力加速度= 0.5 kg × 9.8 m/s^2= 4.9 N
次に、おもりを引き上げるために必要な仕事を計算します。ここで、力は引き上げるおもりにかかる重力であり、距離はおもりを引き上げた高さです。おもりを50cm(0.5m)引き上げたので、距離は0.5mとなります。
仕事 = 重力 × 距離= 4.9 N × 0.5 m= 2.45 J

最後に、仕事率を計算します。時間は5秒なので、仕事率は次のように計算できます。
仕事率 = 仕事 ÷ 時間 =  2.45 J ÷ 5 s = 0.49 W
よって、仕事率は0.49Wとなります。
この答えは残念ながら設問に対して微妙にずれている。問題文は100 gを10 Nで計算せよと指示をしている。重力加速度は与えられておらず、おもりの重力を4.9 Nと計算することはできない。ここでは問題文に従って 5 Nとしなくてはならない。したがって、問題文の題意に沿った解答は0.5 Wになる。ただ、ChatGPTの答えは問題文に従っていないというだけで、考え方の順序は正しいし、計算はより正確だ。そしてこの程度の数値計算なら難なくこなすことが分かる。


続いて、高校レベルの問題。
Q.「地球の半径をR、地表での重力加速度の大きさをgとする。第二宇宙速度の大きさをRとgを用いて表せ。」
第二宇宙速度とは、地球の重力から完全に自由になるために必要な速度のことであり、地球から放物線軌道を超えて円軌道に乗るために必要な速度でもあります。円軌道に乗るために必要な速度は、地表での重力加速度gと地球の半径Rによって次のように表されます。
v = sqrt(2gR)
したがって、第二宇宙速度の大きさは、地表での重力加速度gと地球の半径Rを用いて次のように表されます。
v2 = sqrt(2gR)
これは最後の答えだけは合っているのだが、残念ながら途中の説明はめちゃくちゃだ。しかも途中の導出が一切ない。これはおそらく、ネット上にある第二宇宙速度の式を拾ってきて、それに適当な文章をつなぎ合わせているからだろう。

質問の仕方が悪かったかもしれないので、式の導出過程も答えさせることにした。
Q.「地球の半径をR、地表での重力加速度の大きさをgとする。第二宇宙速度の大きさをRとgを用いて表せ。途中の式の導出過程も述べよ。」
(まず、第一宇宙速度を説明されたが、問題と関係がないので省略)
次に、円軌道に乗るために必要な速度を求めるためには、エネルギー保存則を用いて、地球表面から無限遠までの重力ポテンシャルエネルギーの変化量が、運動エネルギーの変化量と等しくなるような速度を求めます。円軌道に乗るために必要な速度である第二宇宙速度v2を求めるためには、以下の式を解きます。
地球表面での運動エネルギー = 無限遠での重力ポテンシャルエネルギーすなわち、
(1/2)mv2^2 = (-GMm)/∞
ここで、Mは地球の質量、mは物体の質量、Gは万有引力定数、∞は無限遠の距離を表します。
また、地球表面での運動エネルギーは、
(1/2)mv2^2
無限遠での重力ポテンシャルエネルギーは、
(-GMm)/∞ = 0
したがって、次の式が得られます。
(1/2)mv2^2 = (-GMm)/∞
(1/2)mv2^2 = 0
v2 = sqrt(2GM/R)
ここで、地球の質量Mは5.9722×10^24 kg、万有引力定数Gは6.6743×10^-11 N・m^2/kg^2です。したがって、第二宇宙速度v2は以下のように表されます。
v2 = sqrt(2GM/R) = sqrt(2×6.6743×10^-11 N・m^2/kg^2 × 5.9722×10^24 kg / 6.3781×10^6 m)
v2 = 11.2 km/s
以上が、地球の半径Rと地表での重力加速度gを用いて第二宇宙速度を求める導出過程と解答です。
これも全体を通じて説明はめちゃくちゃだし、当然のこと途中式もおかしい。たとえば「したがって、次の式が得られます」の後の二つの式だと"v2=0"となり、これは明らかに誤りだ。そして、前の質問と同じく最後の答えだけ正解になっている。やはり正解だけどこからか拾ってきたのだろう。なお、最後の数値計算は設問で要求されていないので余計である。ちなみに、期待していた解答は次のようなものだ(細かい説明は省きます)。
20230413_第二宇宙速度
ここで紹介した3例の他に何種類かの問題を試したが、どれも似たような結果になった。正解は出すものの途中経過がめちゃくちゃなのだ。もちろん試行回数は少ないし、自分の聞き方のクセもあるだろうから、これだけでChatGPTの能力を判断するのは難しい。ただ、ここで紹介したようなどこかで見たことがあるような問題なら、Web上の情報から正解を見つけ出して提示できることは間違いなさそうだ。

以上、中高レベルの問題で試した結果だが、より高度な問題や科学的な推論を問う問題はどうなのだろう。興味が持たれるところだ。