ウランガラスの話の続きです。今回は発光現象について。

前回述べたように、ウランガラスはガラス中にウラン、正確にはウラニルイオン(UO2)2+が含まれている。このウラニルイオンが緑色に光る。ちょっと小難しいがその過程を説明する。まず、ウラニルイオンは紫外線を吸収する。するとウラニルイオンの中の電子がエネルギーをもらって軌道の形が変わる。少し時間をおいて(と言っても1ミリ秒程度)電子が元の軌道に戻る。その際に余分なエネルギーを光として放出する。これが緑色発光の正体だ。下の写真は、ウランガラスに紫外LEDを当ててみたところだ。紫外線の進む向きに緑色の光の筋が見えるが、これは紫外線の道筋に沿って、ウラニルイオンが緑色に光っていることによる。

ウランガラスの発光

ウランガラスは19世紀に宝飾品などとして製造されてきたが、当時は紫外線ランプなど無く、太陽光に含まれる紫外線を利用していた。もちろん今でもその現象は起こるわけで、太陽光で緑色発光は起きる。明け方や、日中など時間帯で紫外線量が異なるため、緑色の強さや見え方が変わるそうで、昔の人はそれを楽しんでいたという。

この紫外線を吸収して、目に見える波長(色)の光を放出する元素は他にもたくさんある。特に希土類に分類される元素(Ce、Eu、Gdなど周期表の下の方にある元素)は可視光でさまざまな色に光る。そのため、蛍光灯、白色LED、昔のブラウン管テレビなど、照明や映像機器に広く使われてきた。ベテランの方だと、かつて日立が「キドカラー」という商品名でテレビを販売していたことを知っていると思うが、この名前は希土類をもじったものである。

話が少しずれてしまったが、ウランの緑色発光も似たような原理である。ただし、ウランガラスの場合、周囲の原子の配置で、ガラスそのものの色と緑色発光が変わる。一般的にガラスは複数の原料を混ぜ合わせて作られ、多成分ガラスと呼ばれる。ウランガラスも多くの成分で作られており、成分次第でウランガラスの色は変わる。市販されているウランガラスの多くは、やや黄色みがかかった透明なガラスだが、添加物によっては赤くなったりする。そして、緑色の発光も組成で微妙に変化する。成分の調整で色を変える技法は、工芸ガラスの世界ではよく行われている。

前回、一般的な色ガラスと違って、ウランガラスは自分から発光しているので見え方が独特だ、と述べた。ウランガラスはよく見ると縁の部分でより緑色が強いように見える。これは、ガラスの内部で出た光が、ガラスの内壁で反射を繰り返した結果、端部から外に出ていることによる。ガラス内で反射を繰り返して光が進む現象は、光ファイバーの中を光信号が進んでいく原理と同じである(厳密にはちょっと違う)。下の写真は明け方の光で見たウランガラスで、縁の部分が明るく光っているのが分かると思う。

20200717_ウランガラス

ところで、自分の経歴をふりかえってみると、ウランガラスに興味を持つのも当たり前のように思える。これまでの仕事をざっと眺めると、20年ぐらいの間に、無機材料の発光の研究(しかも緑色)、光ファイバーの開発、ガラスの組成開発などを手掛けてきた。どれも今回のウランガラスの話に関係が深い。とても他人事には思えないのだ。